2019.11-30_12-22■黒宮菜菜 田中奈津子「ポートレート モード」

■黒宮菜菜 田中奈津子「ポートレート モード」
 
ポートレートモードを起動する
平田剛志
 
絵画の起源は、人を描くことから始まった。よく知られている逸話は、若い娘が戦地に赴く恋人の影の輪郭を炭でなぞったというプリニウスの『博物誌』である。
その後、絵画は肖像画というジャンルを生み出し西洋で隆盛となる。だが、19世紀に写真が発明され、その役割は写真へと移行した。さらに現代では誰もがスマホで写真を撮り、SNSで共有し、人が人の画像を求める欲求は変わらない。では、現代絵画は人をどのように描くのか。黒宮菜菜、田中奈津子による「ポートレートモード」は、現代における「ポートレート」とは何かをテーマとする絵画展だ。
 
タイトルの「ポートレートモード」とは、デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能に搭載されている「ポートレートモード」に由来する。カメラには人物や夜景、風景などを撮るのに適したモードを選択できる機能があり、撮影後は自由にカスタマイズすることができる。
一方、絵画においても画家それぞれの「ポートレートモード」があるのではないだろうか。それは、商品出荷の際に設定されたオートマティックなデジカメやスマホとは異なるマニュアル設定だが、作家各自の関心や被写体によって、さまざまなモード(流行、方法、様式、形式、状態、態勢)を生み出しているのではないか。
 
黒宮は一貫して人物を描いてきた。近年は2枚重ねの和紙に染料を滲ませたり、小説に登場する人物をモチーフに描いた油絵にオイルを注いで揺らがせるなど独自の手法で夢幻的な人物像を生み出している。
田中は、近年は壷をモチーフにさまざまな制約を課した絵画を制作してきたが、今展では男女のモデルを描いたヌードクロッキーをもとに、線や形を抽出、結合した抽象的な「ANDROGYNOS」シリーズを出品する。2人の共通点とは何だろうか。それは、どちらも現実に依拠しながら想像=絵画上の「ポートレート」であることだ。その想像を形にするのは、描画材や描画法というテクノロジーだ。二人のポートレートモードによって捉えられた人物像には、写真画像では見えない可視と不可視、現実と虚構、存在と不在など、人を描くことの根源的な謎と問いが含まれているだろう。
新しいテクノロジーがポートレート写真や顔認証技術など人物認知を変えている現代。絵画もまた新たなモードによって、現代の人物画=絵画を描くことができるはずだ。いまポートレートモードによって描かれる「人物」とは何か。その成果は平坦な液晶画面ではなく、厚みや物質性のある絵画空間でこそ対峙したい。
 
2019年11月30日(土)―12月22日(日)
12:00-19:00(最終日17:00)
月・火・水 休廊
 



黒宮菜菜 Kuromiya Nana
 
1980 東京都生まれ
2007 京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科洋画コース総合造形専攻卒業
2009 京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻修了
2015 京都市立芸術大学・博士(芸術学)学位を取得
 
個展
2010 「黒宮菜菜展 - 流彩の幻景 - JINAX ギャラリー2(東京)
2016 「黒宮菜菜展夜職げな際」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
2018 「うっっ」ギャラリーノマル(大阪)
2019 「ARKO 2019 黒宮菜菜」 大原美術館
    「Boys」フィンチアーツ (京都)
 
グループ展
2010 「Art Court Frontier 2010#8」 ART COURT Gallery(大阪)
2012 「極並佑・黒宮菜菜・三好彩展」 渋谷ヒカリエ8/CUBE 1,2,3 (東京)
2014 「トーキョーワンダーウォール2014入選作品展」東京都現代美術館
2017 「のっぴきならない遊動:黒宮菜菜/二藤建人/若木くるみ」京都芸術センター
2018 「第21回岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
    「AllStars」ギャラリーノマル (大阪)
    「京都府新鋭選抜展 2018」京都文化博物館
2019 「移転オープン展 vol.1 「ここが浄土か。」」フィンチアーツ (京都)
 
賞歴
2009 修了制作展 大学院市長賞
2014 トーキョーワンダーウォール賞
2017 京都市芸術新人賞
2018 第21回岡本太郎現代芸術賞 入選
 
パブリックコレクション
大原美術館
京都市立芸術大学
 


田中 奈津子 TANAKA Natsuko
 
1981年 福岡県北九州市生まれ
2005年 京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業
2007年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了
 
個展
2011年 デコレーション/アートスペース虹(京都) 以後4回個展
2017年 きょうの壺 プレミアム/Gallery PARC(京都)
      アブストラクト食う女/ギャラリー島田deux(神戸)
2018年 Open Working "Being series"/京都市岡崎いきいき市民活動センター(京都)
2019年 Being series/ギャラリー白(大阪)
      into Being/d3 Gallery(北九州) 他
 
グループ展
2012年 「あれから、そして、これから」 山本俊夫、藤原康子、田中奈津子/ギャラリーモーニング(京都)
2013年 「悦ばしき知覚」 関口敦仁、山部泰司、松井沙都子、田中奈津子/galerie16(京都)
2016年 「SPECTRA」 鷹木朗、田中奈津子/ギャラリー恵風(京都)
2018年 「壺の中のダイアローグー陶と絵のあいだでー」石黒紀子、田中奈津子/ギャラリー恵風(京都)
      第1回M展/d3ギャラリー(北九州) 他
 
受賞
2015年 きょうの壺 マネックス証券Art in the office 2015 審査員特別賞
 
パブリックコレクション
大分県立美術館 京都第二赤十字病院