2021.5.8-5.30 渡辺信明展『反転のバルコニーU』

渡辺信明展『反転のバルコニーU』

2021年5月8日(土)-5月30日(日)
12-19時(最終日17時まで)
休廊/月・火・水
 
六月の緑のなかに私はダイブした。
風景の上下左右が一瞬にして入れ変わるなかで、脳細胞は遠心分離されたかのように激しく覚醒する。
絵を描き出す一歩として、宙に躍り出た私の身体は、強い光の束で受け止められ、そして何度も放り返される。その繰り返しを楽しむように、私は画面という未知なる皮膚に新たな感覚を見出すのである。

渡辺信明


  


「植物は、行為のひとつの解析であり、空間に於ける独特な弁証法なのだ。直前の行為の分裂による前進。動物の表現は口頭で行われるか、あるいは、次々と消える身振りによって演じられる。植物の表現は断乎として書かれるのだ。・・・・彼らの身振りの一つ一つは人間と人間が書いたものとの関係のように、ただ痕跡を残すばかりではなく、一つの現存を、手の施しようもない、<しかも、彼らから切り離すことが出来ない>一つの発端をのこしているのだ。彼等の姿態、あるいは<生きている絵画>。無言の願望、懇願、強靭な静寂、勝利」(フランシス・ポンジュ「物の味方」阿部浩一訳より)
2015年6月、京都「ギャラリーすずき」での個展のとき、渡辺信明は「放電の庭」というタイトルで印象的な文章を記している。「蒸れた匂い、擦れる音、光る水滴。生い茂ったオールオーバーな庭空間に身を沈めると、そこには失った遠近が新たな活気を帯びる絵画的磁場を感じる。」壁には約 2m×5mの巨大な作品が展示された。それは今までの彼の方法の展開であったとしても、描くテーマはより明快になり、自身を取り巻く風景、植物の様子が抽象的形態を取りながら、事物が孕む指向のあり方を「絵画的磁場」として感受し表現した。さらに自然に対する眼差しの持続が、その後の彼の展開に二つの要素を生み出した。それが糸状の「フィラメント」であり、つなぎ目としての「シナプス」であった。この二つの要素が彼の絵画をより豊かなものにし、さらに可能性のあるものにしている。それは、風景を表層の視覚で理解する日常的身体に対する「絵画的磁場」の立ち現われであり、風景が彼の外側だけでなく、身体の内側にもあり、二つの鼓動の重なりが形となり、電波となって絵画表面を作り出している。描かれたタブローは静と動が織りなす<生きている絵画〉となり我々の前に出現する。有機体としての人 間には経験、記憶としての意識はもちろんのこと、それ以外の思考も内在している。植物が成長のために物を選んで伸びるように、意識を必ずしも前提にしない無意識的把握があり、肉体の大部分をカバーしている。それらの抽出作業が「フィラメント」と「シナプス」を作り出し、緊張関係を作り、絵画空間を作動させる。鼓動と光のもつれ合いがエロス的空間を醸し出し、見る人を魅了し、中毒にもする。まさしく彼の体内を流れるリズムが遠近のフィラメントになり、筆の先から放電されながら、シナプスに捉えられたものとなり、今、ここという現存から見られた新たなモナドとしてキャンバスに定着されている。それが彼の言う「画面という未知なる皮膚にあらたな感覚をみいだす」ことであり、破壊と創造の弁証法的絵画になるとも言える。

2kw GALLERY


 
■渡辺信明/WATANABE Nobuaki
 
1962 滋賀県に生まれる
1988 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了
現在、京都市立芸術大学 美術学部 教授
 
<個展>
1987 ギャラリー16(京都)
1988 三和銀行ロビー(京都)
1989 ギャラリーすずき(京都)
1990 ギャラリー白(大阪)
1991 ギャラリーすずき(京都)
1992 ギャラリーすずき(京都)
1993 ギャラリー白(大阪)
1996 ギャラリーすずき(京都)
1997 ギャラリー白(大阪)
1998 ギャラリーすずき(京都)
     複眼ギャラリー(大阪)
1999 ギャルリ・プス(東京)
2000 ギャラリーすずき(京都)
2001 ギャラリー白(大阪)
2002 ギャラリーすずき(京都)
2003 テンバ・Aギャラリー(大阪)
     「同時」ギャラリー白(大阪)
2004 「同時/Life」ギャラリーすずき(京都)
2005 「同時/終わりなきもの」ギャラリー白/白3(大阪)
2006 「望遠」ギャラリーすずき(京都)
2007 「望遠」ギャラリー白(大阪)
2008 「ボルトボルト」ギャラリーすずき(京都)
2009 「きんとうん」ギャラリー白(大阪)
2010 「古墳マド」ギャラリーすずき(京都)
2011 「アサメヨシ」ギャラリー白(大阪)
2012 「アクビビ」ギャラリー白(大阪)
2013 「遠近散歩」ギャラリーすずき(京都)
2014 「コブネイズム」ギャラリー白(大阪)
2015 「放電の庭」ギャラリーすずき(京都)
2016 「遠雷」ギャラリー白(大阪)
2017 「FILAMENT」ギャラリー恵風(京都)
2018 「花の糸」ギャラリー白(大阪)
2019 「森のシナプス」ギャラリー恵風(京都)
2020 「反転のバルコニー」ギャラリー白(大阪)
2021 「反転のバルコニーU」2kwギャラリー(滋賀)
 
<主なグループ展>(※抜粋)
1986 「宗達の正直者」ギャラリー白(大阪)
1987 「トランスアートシーンUーバイオマップの交通図ー」ギャラリー16(京都)
     「フジヤマゲイシャ5」京都芸大ギャラリー(京都)・ライティングラボ(東京)
1989 「アートフォーラム’89ー飛来するさかなー」嵯峨美術短期大学展示室(京都)
1990 「ART JUNCTION5」河原町阪急ウインドウギャラリー(京都)
1991 「現代美術’91ー素材はいろいろー」徳島県立近代美術館(徳島)
1992 「筆跡の誘惑ーモネ、栖鳳から現代までー」京都市美術館(京都)
1993 「京都府選抜・次代を担う作家」京都府立文化芸術会館(京都)
1994 「アート・ナウ’94ー啓示と持続ー」兵庫県立近代美術館(兵庫)
1996 「VOCA展'96 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」上野の森美術館(東京)
1999 「Painting good worksー東島毅、山辺泰司、渡辺信明展ー」ギャラリー白(大阪)
2004 「DRAWINGS/ユニットS+Nにて参加」ギャラリーそわか(京都)
2007 「ダイアローグ コレクション活用術 vol.2」滋賀県立近代美術館(滋賀)
2008 「絵画のたのしみー善住芳枝、館勝生、渡辺信明ー」ギャラリー白(大阪)
2014 「地の糧ーその誘惑ー岩名泰岳・渡辺信明」2kwギャラリー(大阪)
2015 「Enk de kramer と渡辺信明」Oギャラリー eyes(大阪)
2016 「ペインタリネス」ギャラリー白(大阪)[1995年〜2019年]
 
<受賞>
1991 次代を担う作家展<優秀賞>
1999 まくらざきビエンナーレ<準大賞>
2001 京展<京展賞・京都市美術館賞>
2003 吉原治良賞展<優秀賞>
2006 京都市芸術新人賞
 
<パブリックコレクション>
京都府立文化芸術会館、枕崎市文化資料センター、京都市美術館